コラム
【後編】今日をどう生き切るかが、明日をつれてくる!病気のつらさを知る者だからこそ、社会や人へ届けられる勇気がある。起業家 中村 優志さん
金融業界で順調なステップアップを果たしていた28歳のときに受けた突然のがん宣告。将来に抱いていた漠然とした夢や希望、家族と過ごす人生設計などが一度に現実のものとして立ち現れました。今ではがん体験を機に、大きく夢に向かっていきいきと生きる中村 優志さんですが、人生観をシフトした体験とは?また、立ち上げた事業ではどういった活動をしているのかについてお話をお聞きしました。
中村 優志
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1992年東京都生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後2016年4月都市銀行法人セクション部に入社。5年間本店と長野支店を経たのち2021年3月フランス系保険会社に最年少管理職候補として転職。在職中の2021年7月精巣腫瘍が発覚。2022年6月株式会社リシュブルーを創業、代表取締役として“日本酒”に焦点を充てた事業を展開している。
がんの治療はテレビの世界でしか知らなかった。髪が抜けるくらいかと思っていた抗がん剤治療の本当のつらさにダウン
中村さんの罹患した精巣がんは、若年層に多く稀ながんでもあったとのことでしたね。どういった治療を受けたのでしょうか。当時、冷静に治療計画を考えられたのでしょうか。
「当時はもちろん今よりも若かったわけですが、冷静に情報を調べて行動していました。治療内容は、最初は病巣の摘出手術が終われば治療もおしまい、となぜか勝手に思っていたのですが、病理検査の結果、がん細胞が体内に残っている可能性も懸念としてある、ということに。医師からはやっておいた方がいいかもしれない、くらいの感じで化学療法、いわゆる抗がん剤治療を薦められました。自分で考えて、手術後3ケ月で抗がん剤治療をはじめたのです」。ここでまず、当初より治療生活が長くなったわけですね。
「ステージ1でも病理の結果で抗がん剤の必要があるのか、と自分でも思いました。当時は特に葛藤なく抗がん剤治療をやろうと思ったのですが、ただ、今ふり返ると二度と経験したくないですね…!そもそもそういう治療についてテレビの世界の話しか知らず、これを乗り切ったら安心できるんだ、と思い込んでいたところがあります。純粋に知識がなかったので判断の材料が浅く、結果気軽に治療に進めたわけです」と心境をふり返る中村さん。
治療の選択肢があるということは、生きる可能性が増えることでもあります。中村さんは医師が薦めたからというより、自分の納得で治療を進めました。
「年齢が若いと副作用が強く現れると聞いていましたが、副作用はホントにしんどかった。しんどいので寝るんですが、寝てもしんどいから目が覚める。そのとき唯一心配だったのは腎臓のこと。僕は腎臓が生まれつき1個しかないというのを、社会人になって行ったCT検査で偶然初めて知りました。
一般の人より腎臓1個が大きく、仮に糖尿病などになったら替えが利かないので気をつけるように、と日ごろから言われていました。ですが抗がん剤治療は腎臓にすごく負担がかかるんですよ。1日15,6回くらいトイレに行って薬剤を尿と一緒に排出しなくてはならず。当時はそのことがすごく心配でした。想定していたとおり、抗がん剤を始めて2週間くらいから髪はバッサーと抜けていきました」と語る現在の中村さんの頭髪はすっかりもとどおり。新しく生えそろったとき、不思議なことに髪質も変わっていたそうです。
治療に入る際に立てた計画ではお金もなんとかなるはずだった…。治療費だけでなく生活費もかかる生活、キャッシュの入るタイムラグに苦闘
ところで、中村さんは金融業界でお勤めでしたがお金の工面や備えはいかがでしたか?
「勤務先は年俸制だったので、有休の間は給与が出ました。ただ、休職期間は出なくなります。治療開始の最初の1ヶ月は有休を充てつつ、以降3ヶ月間の休職期間は健康保険の傷病手当金を支給されました。ある程度これで計画はできたな、と思いきや、手当が支給されたのは復職の3日前!タイムラグを見誤って、治療費と生活費の算段は本当にギリギリとなってしまいました。これもひとつ想定外であわてましたね。
あと、仕事柄20代でも医療保険、がん保険、生命保険には加入していたものの、結局積み立てていた個人年金は解約せざるを得なくなりました。治療前にお金の計画を立てていた際、数ヶ月先のところでこれだけ入ってくるな、という見込みをしていたんですが、待てよ、そこまでもたないぞ、と思って。行員時代から積み立てていたのですが返戻率も60%ほどで、元本割れしていましたが手元資金がないよりは、ということで解約に至ったんです」。
今でこそがんについての情報はたくさん入手できますが、それでも「個体別」ということを私たちは渦中にいるとあまり考えられないものです。1人ひとり、がんの状況も違うので一般に言われる治療期間もあくまで目安でしかなく、実のところどれくらいの期間にわたってどれくらいのお金が必要になるのか?は、個人それぞれのケースに拠るのですね。
中村さんのように金融の知識があっても20代で罹患したら充分なお金の備えは難しいものです。治療に懸念なく臨むためにも、お金の工面をするさまざまな選択肢があると心強くいられるのではないでしょうか。どうにもできずに生命保険の解約を考える場合には、ライフシオンにご相談いただくこともがん患者様にはお伝えしていきたいところです。
体は動かなくても考えることはやめなかった。ビジネスの構想を現実に移した生きる力。銀行員時代にたくさんの事業を見てきた視点を活かして
苦しい治療を乗り越え、見事夢だった起業を実現しましたね。
「ええ。人間はいつ死ぬかわからないな、という価値観になってから自分が今何をしたいか、何ができるか、そのためにどういうふうに動いていこうとか、とそういう考えになっていましたので、治療中も体こそ動けませんでしたけど頭は激しく動き続けていました。現在推進しているビジネスもそのときに着想していたものです」。
中村さんのビジネスは、銀行員時代にさまざまな業界に対して改善感度をもって事業を眺めていた経験が着想のヒントにもなっていたとか。

「日本酒に焦点を充て、関連する諸々を事業化していきます。酒蔵、酒造業界サイドに寄り添ったものですね。わかりやすいのはスキンケア商品の開発や輸出、他に酒蔵のラベルのリブランディングなども、新しい試みに関心をもってくれる酒蔵さんを対象にして取り組んでいます。また、業界的にデジタル化なども課題のひとつですから、デジタルを活用した効率化にも着手しているところです」と語る中村さんは、いかにも充実した日々が垣間見えます。
日本酒によるビジネスの可能性を示唆する、というビジョンのもと企業経営をしているなかで、業界で当たり前になっていることも異業種経験を積んできた中村さんのような新しい視点からビジネスとして見ると、新たな発見やブレークスルーの芽も生まれるはずです。
「構造など大きな点だけでなく、手前のブランディング、マーケティング、プロモーションでできることもたくさんあると思っています。今は自分が主体になってやりたいことをできるので会社員時代とは違う面白さ、充実を感じられますが、もちろん起業したゆえの困難にも日々ぶつかりまくっていますよ(笑)」。
今日明日あさってくらいにフォーカスして楽しんで生きること。今が明日をつくるという生き方がくれた充実
「そうした自分の意思決定に基づく生活を送れる日々にあって、長期的なことは考えなくなりました。人生設計と考えた際、人はまだまだ未来があると考えてしまうものですよね。僕は逆に、昔は人生設計を考えている方でしたが今はほとんど考えません。正直、今日明日、あさってくらいの事しか考えていない。いかにそこにフォーカスして楽しんで生きていけるか、と考え方が変わったのです」。
メガバンカー経験でおそらくは多数の“一瞬先はわからない”企業経営の現場を目の当たりにしてきた中村さんは、決して安楽に起業を考えてはいません。それでも強くこう言い切る姿から、今日という日が本当はかけがえのない貴重な一日として感じられるのではないでしょうか。
「今後の目標としては、まずは今日と明日を全力で生きる。これありきです。会社経営としては事業を大きくしていきたいです。そして、僕というフィルターを通してがんに限らず病気で苦しんでいる人たちを元気づけられたらいいな、と考えています」と、強い意思的なまなざしと共に持ち前のひと懐っこい笑顔を見せるのでした。
一大事件となっているビッグモーター問題、保険業界側からみた真の問題点に迫る
ビッグモーター社による保険金の不正請求事件が世間を騒がせています。
ビッグ社が修理を依頼された自動車にゴルフボールや紙やすりでわざと傷をつけるなどして、保険金を水増し請求していたというにわかには信じがたい事件で、かつてバイクに乗っていた身として、信じて預けた愛車にそのような行為をされていたという自動車のオーナー様の心痛は大変なものかと思います。
ビッグ社の問題については他に譲るとして、ここでは損保会社側の問題について考えてみたいと思います。
日本保険業界史における最大級スキャンダルの可能性
一部報道では、損保会社側もそのような不正請求が行われていることを知っていたといわれています。報道ではマイルドに「不正請求」というワードを用いているのでしょうが、これは保険金詐欺にほかならず、損保会社が保険金詐欺の存在を知りながらそれを告発もせず、詐欺を働いた会社と取引を続けていたということになれば、損害保険の信頼を揺るがす大問題です。これが個社の問題にとどまらず、業界全体の問題となれば、日本の保険業界の歴史でも最大級のスキャンダルということになるでしょう。
2000年代に保険金の不払いが大きな問題になりましたが、私見ではそれをはるかに超える大問題になりうると思っています。というのも、保険金の不払い問題は、極めて悪質な「意図的な不払い」と事務ミスやビジネスモデルの設計ミスによる「支払い漏れ」に分けられますが、前者はあくまでも特定個社の問題であり、業界全体の問題ではありませんでした。
損保会社が具体的な不正を知りながらそれを見逃していたとなれば悪質さは極めて高く、もし仮にそれが業界横断的なものだったとなれば損害保険業界の地盤を揺るがす問題になるでしょう。
また、損保会社が保険金詐欺を知っていたかどうかは当然として、見抜けなかったのかも問われることになります。ビッグ社で修理した案件の損害額が他と比べて明らかに高かったことを把握していたのか、把握していながら疑問に思わなかったのかなど、損保会社もうすうす感づいていたのに自社の保険を強力に販売してくれるビッグ社に忖度して指摘をしなかったというような実態がなかったのかどうかが問題になるでしょう。
保険商品のわかりにくさ・売れにくさが引き起こした問題だった!
ところで、ビッグ社は保険代理店に過ぎず、本来は保険会社から管理・指導を受ける立場なのに、なぜこのような問題が生じたのでしょうか?
それは、保険商品がとても「わかりにくく」、それゆえに「売れにくい」商品であることが原因であると思います。
保険商品というのはとても特殊な商品で、買ったからといって消費者になにかわかりやすいメリットがあるわけでもないにもかかわらず、安くはない金額を長期間払い続けるというものです。そういう意味ではかなり哲学的な商品であり、本来、こういった商品を売ることは容易なことではないため、保険会社と「売れる」代理店の間での力関係の逆転が生じます。
ここで、もし消費者の側に保険商品を理解して本当に良いものを見抜く力があれば、そこまで代理店の力は強くはならないでしょう。「おいしい」とか「おもしろい」とか、直感的に理解できるものは消費者からみて「分かりやすい」商品であるため、「売る力」よりも商品のよしあしが売れ行きを決めることになります。
「わかりにくい」商品の筆頭格であろう保険商品については、代理店が「どれを売ろうとするか」が売れ行きに対して決定的な影響力を持つこととなります。ビッグ社に関する疑惑が出てきて以降、損保会社はビッグ社の修理工場の紹介をストップしていたところ、一部の損保は紹介を再開し、その代わりにその損保の商品を売ってもらっていたというような報道も出ているところです。
保険会社による代理店の管理・指導は可能なのか?問われるフェアなマーケット形成
金融庁も、保険代理店が消費者の利益にかなわない商品を販売すること(例えば、より適切な商品があるのに手数料の高い商品を消費者に勧めること)をなんとかしてやめさせようとはしていますが、保険金詐欺を見逃してくれる会社の商品を推奨していたという話なのであれば言語道断としかいいようがありません。保険代理店は保険業法で規制されている業種であり、登録なしでは保険募集ができません。保険業法違反があった場合や保険募集に関し著しく不適当な行為をした場合は登録を取り消されることになりますから、おそらく登録の取り消しは免れられないのではないでしょうか。
また、代理店制度そのもののあり方も考える必要があります。力関係が容易に逆転しうるのに、保険会社が代理店を管理・指導するという制度が本当に実効的に機能するのか、形骸化していないかなどしっかり検討する必要があるでしょう。力関係が逆転している状態で、力の弱い保険会社が力の強い代理店を管理・指導するというのは果たして実効性があるといえるのでしょうか?
今回の問題に限らず、一部の力のある保険代理店が保険マーケットの競争を歪めているとの指摘は常々なされているところです。フェアなマーケットの形成が望まれます。
【前編】順風満帆なYoutuberとしての生活がパートナーのがん宣告で激変。互いに支え合いたいという思いで活動を前進できた サニージャーニー こうへいさん
こうへいさんとみずきさんのお二人は、旅系カップルユーチューバー「サニージャーニー」として2022年4月から日本一周をキャンピングカーで巡る旅をスタート。順調に動画登録者も増えるなか、突如みずきさんにすい臓がん(ステージ4)が発覚。現在は治療に臨みながらがんについての情報発信も行い、時にさまざまな議論も巻き起こすなどしながら、明るさを失わない二人の姿勢に共感と応援が集まっています。今回は、最愛のパートナーが若くしてがんに罹患するという体験を現在進行形で生きるこうへいさんにインタビューを行いました。2人でひとつの夢を追う、家族の視点でこれまでとこれからを見つめます。
夢に向かう人気ユーチューバーとしての生活が一瞬で変わったあの日。いまもコツコツとコンテンツをつくり情報を発信する日々
「高知県に差し掛かったあたりで、みずきが大きく体調を崩しました。現地で可能な限り大きい病院へ行きましたが、うちの病院ではわからないということで愛媛の大きな病院へ自分達の判断で行くことにしました。その道中黄疸が出て、みずきが自分で調べたところ症状からすい臓がんの記事をたくさん見つけ、大急ぎで愛媛へ向かいました。医師にすい臓がんの可能性があると言われたのは愛媛の病院が初めてです」。
こうへいさんは二人の活動が、生活が一変した日のことを回想し「みずきの実家が札幌にあるので、戻って詳しい検査をすることにしたんです。結果、32歳では非常に珍しいと言われたすい臓がんであることがわかりました。1度札幌で腰を落ち着けて治療をしよう、ということになったのです」。
旅系カップルユーチューバーとして人気のこうへいさんとみずきさんは、「サニージャーニー」というユニットを組み、軽キャンピングカーで沖縄から日本を一周する旅を計画のもと、旅の様子をユーチューブで動画配信をしていました。二人のパーソナリティーを活かし、全国各地の観光スポットやご当地グルメの紹介動画や、ロードムービーのようなキャンピングカーでの生活が評判を呼び、着々と登録者数を増やす人気ユーチューバーとなっていきます。そんな折、高知県で体調に異変を感じたのは旅を始めておよそ半年ほどのことだったそうです。
「本当は1年、1年半とかゆっくりと時間をかけて日本一周をしようと話していました。がんがわかったのは旅を始めて半年ほどですから、急な状況の変化に遭遇したのです。旅の動画はそれまで半年間、週3本配信していましたが、以降は動画の種類も変更していきながら続けています。みずきのがんはすい臓がんのなかでも珍しいタイプの膵腺房細胞がんということもあり、経験者の情報も希少なのでそういったことも含めて情報発信していこう、ということになりました。けれど病気のことだけでなく、もともとやってきた旅のこと、みずきの夢であったヨーロッパへの旅の模様などもコンテンツにし、現在も発信を続けています」。
情報発信は大切な収入源、何よりもみずきさんの「続けたい」という強い意思があった
もともと注目度が高いサニージャーニーががんについて発信することは、たびたび話題となってきました。ただでさえ心身過酷な治療生活にあってもユーチューブで発信を続けるモチベーションはどんなものなのでしょう。
「みずきの意思です。最初、がんとわかったとき一番に話し合いました。動画、どうする?って。既に登録者もたくさんいて、僕らの動画を待ってくださる方々もいました。けれど、このまま何も言わずやめてもいいと思う、と当時僕は言いましたが、本人の“続けたい”という気持ちが強かった。今はユーチューブの他にブログや音声メディアといった動画以外での発信も始めています。治療初期にホントにこの先、みずきがどうなってしまうのかわからなくて、余命半年から2年と言われるなか、衰弱して動画を撮れなくなる可能性も含めて、本当に先の見通しが立てられない状態でした。
この先動画という手段が難しくなることがこれから起きるかもしれないし、みずきが “あまり元気じゃない姿を見られたくない”という思いもありましたから」。
そういう意味でもペアの活動であったことでこうへいさんが活動を前進させることができ、みずきさんを第一に考えてあらゆる手段を模索してきました。そして、お二人にとってこれら情報発信は、治療生活を支える大切な収入源でもあります。
時間の大切さを意識するなかで、コンテンツ発信は「二人が支えあう」生きがいのかたちでもある
「やはり金銭面ではとても大きかったです。一般的にはがんになって思うように働くことができなくなったり、それで家族がその分を支えていく必要が出てきたりと、治療生活と充分な収入を両立していくことが非常に大変なことだと思います。でも、ユーチューバーである僕たちは、がんがわかったことである意味需要が生まれ、それによって動画視聴数が伸びるようになったりもしました。それに、自分で働く時間を調整することができますから、みずきを一番に優先して、空いた時間で仕事をし、生計を立てていけるという状況は本当にありがたかった。本当にたまたまそうできた、ということなのですが」と、こうへいさんが語るように、お勤め中の場合は会社に理解をいただき時短勤務を考慮してもらうなど、さまざまな組織内での制約のなかで、完全な休業ではなく「どのようにして働き続けられるのか」という工夫が問われます。
お二人に関してはユーチューバーという働き方が今の状況に非常に合致し、みずきさんも完全にお休みするのではなく体調を考慮しながら仕事をする調整ができたわけです。
「そうですね。これは本人も、僕に支えられるだけよりも“自分も生活を支えていく”という生きがいのような感覚も持てていると思うんです。今は家事も僕が全部してある意味ずっと働き詰めみたいな状態なのですが、それをただ見ているというよりもコンテンツ発信をするということは、みずき本人にとっても心地良く過ごせている理由になっているのかもしれません。
余命宣告を受けていたので、二人の時間を大事にしたいとすごく思っていたので、そうした時間をたくさん持ててこられたのは本当にありがたいことでした」。
今の時代だからこそ叶った、理想的な過ごし方をお二人は見出すことができたのかもしれません。そんなみずきさんは、取材の少し前に手術を受けて入院中でした。ずっと弱音を口にしなかった彼女が術後痛みに苦しむ姿を日々目にし、こうへいさんご自身もおつらい状況下でこのインタビューにご協力をしてくださいました。
【サニージャーニー/こうへい】旅系カップルユーチューバー「サニージャーニー」として活動中。32歳ですい臓がんのステージ4を宣告された妻・みずきと夫・こうへいによるユニット。2022年4月に軽キャンピングカーで沖縄を皮切りに日本一周旅行を計画し、旅の模様をユーチューブで配信し評判となる。2022年11月、がんであることを動画で報告、以降チャンネル登録者数は23万人を超え、旅だけでなく現在はすい臓がんにまつわる情報発信も行いながら、持ち前の明るさを失わず治療を続ける妻を全面的に支援しつつ、コンテンツ制作を担っている。 YouTubeこちらから
【後編】明るく過ごした方がお互いに楽しい。大切に日々を慈しみながら、“日本一周旅行”の再開を夢見て サニージャーニー こうへいさん
前編では妻であるみずきさんのがんと診断されるまでの経緯や、ユーチューブ配信がお二人にとって収入面でも生きるモチベーションという意味でも欠かせない基盤であることなどをうかがいました。後編ではさらに、若くして闘病生活に入るうえでの発見や想いを、そしてこれからの夢についてもお聞かせいただきました。
がんの治療生活は先が見えないので、がんとわかると「治療費をどうしよう?」という不安を真っ先に考えるケースはとても多いようです。けれど実際は、治療以外にも生活は続くわけですから、仕事をする時間が減ると収入が減るため、生活全体のお金への不安がとても大きい…ということは、実際にがんに罹患しないと想定が及びにくいということをよく耳にします。サニージャーニーのお二人はどうだったのでしょうか。
【サニージャーニー/こうへい】 旅系カップルユーチューバー「サニージャーニー」として活動中。32歳ですい臓がんのステージ4を宣告された妻・みずきと夫・こうへいによるユニット。2022年4月に軽キャンピングカーで沖縄を皮切りに日本一周旅行を計画し、旅の模様をユーチューブで配信し評判となる。2022年11月、がんであることを動画で報告、以降チャンネル登録者数は23万人を超え、旅だけでなく現在はすい臓がんにまつわる情報発信も行いながら、持ち前の明るさを失わず治療を続ける妻を全面的に支援しつつ、コンテンツ制作を担っている。YouTubeはこちらから
旅出発前にリスク対策を講じるも、まったく想定外の事態に遭遇。役立ちそうな情報はいざというときのために知っておくべきと痛感
「僕たちもやはり、がんがわかってすぐは “お金をどうしよう?”ということを考えました。そしてすぐ、生命保険に入っていたらよかったな、と思いましたよ。旅系ユーチューバーでしたから、がんによって旅が続けられなくなったら収入が減るし、これからどれくらいお金がかかるのかのイメージが全然できませんでしたから。しかも実は日本一周を始める前に保険に入ろうか、なんて話していたのに忙しさにかまけていたり、何よりまだ若いしね、っていう感じでそのままにしてしまったんですよね…。生命保険に入っていたら、少なくとも安心につながっただろうな、と思いますよね。
備えという観点で言えば、僕らを反面教師にしてほしいな、というか 。貯蓄が充分でないのであれば、生命保険に入っておいた方がいいとは思います。こんなに若くてもがんになるのだから。不測の事態によって働けなくなるというのは誰にでも起こり得るので、そのときになってどうようと考えてもちょっと遅いな、という実感を持っています。僕らもホント、すい臓がんにみずきがかかるなんて想像すらしていなかったですし」と、こうへいさんは当時の不安な心境を振り返りながら、こうも重ねました。
「実は、僕に何かあったときに二人の生活を支えるための計画、というのはずっと念頭にあったんですよ。そうなったときにみずき一人でユーチューブをやるのは難しいよなぁ、と。でもまさか、みずきが病気になるという想定がまったくなかったんです」。
あらゆる想定をしながら社会人は生きているものですが、全然想定しない方向から物事が起きることで困難となっていくのが人生なのかもしれません。
生命保険の買取りサービスについて知ったとき、率直にどう思った?
「ちょうどそんなふうに考えていたとき、生命保険の買取りというサービスがあることを聞きました。我妻さん(ライフシオン代表)から連絡を受けた際、がん患者の生命保険を買い取ることで事業社側はどこでキャッシュポイントにするんだろう?と疑問でした。でも、その説明を聞くと“え、素晴らしいサービスだな!”と思ったんです。
簡単に言うと、売却した契約者が亡くなることで保険金が入る。それが事業社に利益となる仕組みですが、それについてネガティブな意見を言う人もいるかもしれません。ですがそういう意味なら葬儀屋さんとかも同じ仕組みですし、困っている人がいるならこういう方法でお金を得られるよ、ということをサービスとしてやろうとする、その志がすごいなと思いました。いろんなことを言われるでしょうに、精神力も意志も素晴らしいことだと素直に思いました」。
みずきさんが若くしてがんとなりお金の心配があるというニュースがメディアを賑わせていたとき、ライフシオンをはじめ、さまざまな情報がこうへいさんの元へ寄せられていました。生命保険料を払い続けることが困難になる、そんな局面も起こり得ることから生命保険の売却による資金調達方法をひとつの選択肢として、サニージャーニーのお二人にもお知らせしたかったのでした。
こうへいさんが自らの意志でやめたこととは。「何よりも妻を優先する」という決意の顕れ
がんは患者当事者だけでなく、身近で共に過ごす家族の問題でもあります。現在、家のことはすべて担っているというこうへいさんですが、パートナーががん治療を始めたことで起きた変化は他にもありました。
「家族側もそれはもちろんつらいことがありますが、そうは言っても患者が1番つらいのは間違いないこと。だから何よりも妻を優先する、と決めています。1番自分のなかで大きな意思決定というのが…。人によっては伝わりにくい話かもしれないのですが、サーフィンをやめたことです。10数年サーフィンをやってきて旅の間も続けていて、ずっと生活の中心にありました。人生を設計していくうえでサーフィンは欠かせないものだったんです。リゾートバイトをするときも波がある場所でしかやらない、と決めていましたしね。辞める必要があったのか?と聞かれれば、明確です。サーフィンをしていると常に波のことを考えてしまうので、“何よりも妻を優先したい” と思うならばいったんやめようと。もちろんやろうと思えばできるでしょうけれど、こんなに自分にとって大切なサーフィンを、誰かのためにやめるんだ、ということは僕にとってものすごく大きなことでした」。
そんなに大切なものもやめてしまって、患者を支える家族として息抜きができるのだろうか…と、少し余計な心配もしてしまうのですが、みずきさんに出逢うまで1人でなんでも自己完結でき人に執着することのなかったこうへいさんが、生まれて初めて「一緒に生きていきたい」と心から願ったのがみずきさんだったのです。
「…なので、余命宣告を受けて未来が崩れ落ちた当時は本当にショックでした」。みずきさんを何よりも優先する。このこうへいさんの決意は、がんが治ることを信じる想いそのものとも言えるのです。
時間の有限を痛感し、やりたいことはすぐに行動へ。病気を治すことに欠かせない、さまざまな力に支えられている今
動画での明るいみずきさんの姿が印象的です。こうへいさんによると、みずきさんは治療のつらさをこぼすこともほとんどなく、副作用のつらい抗がん剤治療も「治るための治療だから」と、前向きに臨み、お互い一緒にいられる時間を大事に過ごそうとしているそう。
「仮にどこかで寿命が尽きてしまったとしても、それまでは明るく過ごしていたいと以前より強く思うようになりました。時間って有限なんだな、と改めて思いました」。
「だから、やりたいことは後回しにしない。これは病気になって1番二人が大きく変化したことだと思います。それまではなんとなく後回しにすることもよくあったんですよ。やりたいことというのは、つらい治療を乗り越えるモチベーションにもなっているようです。生きる力は病気を治すことに欠かせないけれど、見えない部分で大きな力になっているんだろうな、と思いますし、それにいろんな方に支えられているんだな、と自分たちだけで実現できているのではないんだな、と思えるようにもなりました。
あと、以前はささいなことでよくケンカをしていたんですが、今はもう二人とも怒らなくなりました。元々僕は保育士をしていたこともあって、怒らないという勉強をしましたが、今一番大変な人は誰か?ということをいつも考えています」。
がんと共に生きる生活となり、いろいろの面で自ら変容を経験したこうへいさん。今改めて思うことは?
「1番の願いはみずきのがんが治ること。そして、途中となっている日本一周を完遂すること。僕たちが楽しんで、たくさんの方々が観てくれていたので、最後までやり遂げたいと思っています」。 迷いなくそう答えるこうへいさんは、同年代の一般的な夫婦よりも健康の大切やさ、不測の事態へ備えることのリアリティを痛感しながらも、今目の前のみずきさんとの夢の途中を一歩一歩着実に歩んでいるのでした。
個人は「金融リテラシー」をどこまで持てるもの?不安の多い未来に消費者ができる対策について考える
ファイナンシャルプランナー(以下FP)の黒田尚子さんと金融庁出身の起業家であるライフシオンの我妻代表が、個人にとって必要な金融リテラシーをテーマに対談しました。日頃から身近に多くの顧客事例を目にしている黒田さんの考える消費者としての責任などをお聞きしました。
黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士 CNJ認定乳がん体験者コーディネーター 消費生活専門相談員資格。1992年立命館大学部法学部卒業。同年4月日本総合研究所に入社、FP資格取得後に同社を退社し、1998年独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験をもとにがんなど病気に対する経済的備えの重要性を発信する。他、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人がんと暮らしを考える会のお金と仕事の相談事業の相談員、一般社団法人患者家計サポート協会・顧問、城西国際大学・非常勤講師などを務める。
我妻 佳祐(わがつま けいすけ)
株式会社ライフシオン代表取締役。1981年山形県米沢市出身。京都大学大学院で生命保険を研究し、2006年に金融庁に入庁。保険行政を中心に金融行政に幅広く従事。2019年に金融庁を退職し、アクセンチュア株式会社で主に生命保険会社のコンサルティングに携わる。2022年に生命保険買取サービスを提供する株式会社ライフシオンを設立。京都大学大学院博士(理学)
先行きに待ち受ける未来の不安。「不安だから何もしない」から「どんなふうに対策すればいいのか」へシフトしていく必要
黒田)我妻さんは金融庁にいらしたそうですが、現在の「生命保険の買取り」事業の構想はお持ちだったのですよね?いずれは起業してご自分がこうしたサービスを始めよう、とその頃からお考えだったのですか?
我妻)大学院のときからそういうサービスがあることは知ってはいました。そのうち誰かが始めるんだろうな、と思っていたのですがなかなか現れない。民間企業に転職したタイミングで1度自分で事業をやってみたいというのはなんとなく思っていました。たまたまタイミングが合ったというのが正直なところでしょうか。
黒田さんも消費生活専門相談員の資格も取得されていて、より生活者目線でのお金の問題に向き合われていらっしゃる。
黒田)がんになる前に資格は取っていました。消費者トラブルのひとつに金融商品に関するものが多くなっていると感じるケースが増えていたので、消費者を守るために、どういった知識が必要なんだろう?と考えたのです。今ほど「人生100年」時代とは言われていなかった頃ですが、「長生きリスク」は問題視されていましたし、資産寿命を延ばすために、リスク許容度に合っていない金融商品に手を出したり、投資詐欺や金融トラブルに遭ったりする方も少なくありません。そさらに、老後は不安だけれども、とにかく、具体的にどうすればいいかわからないと感じる方もたくさんいます。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という諺にあるように漠然とした不安感に怯えるのではなく「どれくらいお金がかかって、どんなふうに備えればいいのか」という対策が見えれば、安心することができるものです。
FPとして、不安だから何もしない、という方々を少しでもなくしていきたい、という思いで活動しています。
我妻)わかります。先のことがわからないと個人にとって合理的な行動は「とにかく貯めこむこと」になってしまいます。これからの日本社会が取り組むべき課題としては「民間の終身年金の普及」というテーマがあると思っています。自分がいつまで生きるかは誰にもわからないので、想定より長生きしてもいいように節約・貯蓄というのが所得の少ない高齢者の基本的な行動パターンになってしまいますが、これは個人にとっては合理的なので、やめさせることは困難です。終身年金に加入することで、国民年金・厚生年金等と併せて毎月十分に生活を送っていける一生涯の所得があれば、節約や貯蓄は必ずしも合理的な選択肢にはならず、むしろ体が元気なうちに使ってしまうだとか、子や孫に贈与する、社会に寄付するなどの選択もしやすくなるでしょう。計算上は貯金を取り崩すよりも同額の終身年金に加入した方が明らかに得なのですが、日本だけではなく他の諸外国でも民間の終身年金は普及に苦しんでおり「終身年金パズル」と呼ばれて社会的に解決すべき問いのひとつと認識されています。
黒田)似たような話で言うと、例えば、医療保険は入院が長期化したときにこそ賄うものだと考えます。保険とは、「起こりうるリスクは低いけれど、起きたときに経済的に大きな損害が生じることに対して掛ける」ものだからです。確実に起きるのであれば貯蓄で賄えばいいわけですし。その観点からいえば、「日帰り入院でも支払われる」というのが本当に顧客ニーズに合致しているのか疑問です。保険の基本的な考え方からすると、免責期間を長くして保険料を抑え、長期入院の場合に保障が受けられた方が合理的だと思うわけです。
我妻)保険会社としてはそういう商品設計にしないと保険料が安くなりすぎてしまうという事情もあります。保険商品は「イザ」というときに給付を受けるためのものですから、そうでないときに給付が出るものは基本的に割高になると思うべきです。ただ、マーケティングとしてはそういう「余計な給付」がついたものの方が消費者には受け入れられているようで、リテラシーを高めることで競争の結果合理的な商品が選ばれるようになれば良いなと思います。
消費者にとって必要な「金融リテラシー」とは?日本で金融教育が進まない背景から導く解決策は
黒田)そうですよね。2017年3月、金融庁から「顧客本位の業務運営に関する原則」が発表されました。このなかで行政側は、これまでの法令改正などルールベースの対応ではなく、プリンシプルベースの原則を示し、金融事業者がこの原則に対して独自の方針を公表し、サービス提供の競い合いを促しています。そして、それが結果として国民の安定的な資産形成につなげていくという施策です。2021年1月の改訂時には、顧客のライフプラン等を踏まえた商品の提案などが追加されましたし、金融庁が求める金融事業者の自発的な流れに期待したいところなのですが、実際には、なかなか…。
やっぱり、金融商品やサービスを提供される消費者側にそれが自分にとって適切かどうか見極める目がある程度ないと難しいのかなと思っていたりします。日頃いろいろなお客様とお話をしている身からすると、消費者はもっと自分で金融リテラシーを高める努力をすべきですし、金融事業者はもっときめ細やかにリスク許容度を計るべきです。これらが双方向にならないと金融事業者もよい商品をつくらないので、どっちもどっちという(笑)。消費者保護は本当に難しい問題と感じています。
我妻)もちろん金融リテラシーはあるに越したことはないのですが、忙しい現代人にとってまた勉強しなければならないことが増えるというのは大変なことだとも思っています。金融庁時代の上司が「働き盛り世代は投資のことを考えていられるほどヒマじゃない」といっていたのが印象に残っていて、本当に必要な知識に絞って、負担をなるべく減らすことも重要だと思っています。また、そもそも金融は難しく、たとえば「日本人すべてに高校レベルの三角関数を理解させられますか?」というのと同じ話で、まず無理ですよね。政府が「貯蓄から投資」や「一億総株主」というのを本当に目指すのであれば、リテラシーが低い人でも金融サービスを使えるようにする、ということが重要なのだと考えています。では、具体的にどうするのかと言えば、FPさんに丸投げでいいのではないかと。
これはお世辞で言っているわけではなく、実際、アメリカではCFPが簡単な登録で顧客の資産を1億ドルまで限定的に運用できるRIAという制度があります。日本でもやっていけばよいのでは、と思ったりします。そうすれば金融リテラシーとして「株式」「債券」を教える必要すらなくなり、究極的には「インデックス型投資信託」と「つみたてNISA」「iDeCo」だけ知っておけば十分という考え方もアリなのではないかと思います。
黒田)なるほど。確かに「金融なんて勉強しても理解できないから、勉強するくらいなら年間手数料を払って丸投げしてやってもらう」というのは合理的で現実的な解決策です(苦笑)。そうなると、ここはやはり私たち独立系FPの力量が問われてきますよね。でもそこにもまた課題があって、日本FP協会の調査によるとFP事務所などで働く独立系FPの数は1割にも満たないですし、首都圏と地方ではFPの人数自体まったく異なります。
最近、お客さまから、「どこに行けば独立系FPに相談できますか?」や「FPさんはどうやって選べば良いですか?」というご質問を受けることも増えてきましたが我妻さんの「FP丸投げ論」で言うなら、FP自身が独立系でやっていけるスキルとキャリアを磨いていかなければとならない、という問題もあるのです。
我妻)アメリカの事例での「FP丸投げ」だと手数料は1%程度になりますから、預り資産額が10~20億円くらいにならないとFPが生活していけないということにもなりますしね。
情報に踊らされて一喜一憂しない主体性が消費者にも問われる。「なぜそれが必要なのか?」は最低限個人でも考えていこう
黒田)結局、我妻さんが先におっしゃった「最低限必要な金融リテラシー」で言うと、無理して勉強するのではなく、とにかく信頼がおけて、見合った成果を出してくれる金融サービスなどを利用すべき、というのが今の段階の正解かもしれませんね。
我妻)だと思います。実際のところ、これから「貯蓄から投資」をしてもらいたい投資の初心者が買ってもよい投資商品はインデックス型投資信託しかないので、信頼するFPさんと、個人の人生設計(ライフプラン)に合わせていくら買うかを決めていくということになるでしょう。
黒田)なるほど。それはまさに、金融リテラシーから一歩踏み込んだ「金融ケイパビリティ」の能力になるでしょうね。金融リテラシーが「知識」に焦点をあてているとすると、金融ケイパビリティは、「行動」に着目した、すでに欧米でも広まっている考え方です。日本では、まだあまりなじみがありませんが、金融リテラシーとして習得した金融の知識を持って、さらに金融にまつわる実践を踏むことが金融ケイパビリティに繋がるとされています。
それから、お客さまと接していて最近よく感じるのが、保険にしろ投資にしろ「何(WHAT)を買うか」ではなく、「なぜ(WHY)それを買うのか」を理解していないとダメ、ということです。お客さまに商品選定の理由をお聞きすると、「ネット上で、おすすめの商品としてランキングされていたから」や「セールスの人に強く勧められたから」というケースが少なくありません。難しい「問題」に対して、つい、わかりやすい「解答」に飛びついてしまう消費者のお気持ちはわかります。しかし、よくわからないままに買って、なぜそれを買うのか?という背景を理解していないと、多少値動きしても放置しておければいいのに途中であわてて解約したり、止めてしまう方が多い。「これを買え」に踊らされず、最初の段階で「なぜそれを買うべきなのか?」を理解しておく必要性は訴えていきたいところなのです。
我妻)「なぜそれを買うのか」の回答は人生設計から逆算されて出てくるものだと思います。いわゆるゴールベース・アプローチですが、老後どのような生活を送りたいかを考え、無理なくそれを実現できる可能性の高い投資商品を買うというのが基本です。とはいえ、ふつうの人はそもそも人生設計をすること自体が簡単ではないので、FPと相談しながら一度ライフプランを立ててみて、その後は年に1回とか定期的にそのプランを見直すことで理想とする老後を迎えられるようにしていくことが重要なのだと思います。それは、「株式投資で資産を10倍にしよう」というようなものとは全く次元の異なるものですので、先ほど言ったような「金融教育で株式とはなにかを教える必要はない」というようなやや極論気味の理屈にも一理出てくると思っています。
黒田)コールベース・アプローチは、従来の市場株価がベースとなるマーケット・アプローチに対して、まさに「ライフプランありき」でアドバイスを行うFPにとっては、非常に重要な考え方です。人生の目標・ゴールと運用は関係ないといった考え方もありますし、ゴールベース・アプローチを単なる金融事業者のセールストークとして利用されるだけにとどまらないよう、消費者の金融リテラシーを向上させることは、私たちFPの社会的役割の一つだと考えています。
我妻)金融リテラシーとFPの役割についてとても有意義な議論ができたと思います。我々がなぜ金融リテラシーを高めていく必要があるのか、また、なにを学んでいくべきなのか、FP等の外部サービスをどのように活用していくべきかなど、これからも考えていきたいと思います。
我妻)本日はありがとうございました。