コラム

2023-07-25 17:12:00

一大事件となっているビッグモーター問題、保険業界側からみた真の問題点に迫る

ビッグモーター社による保険金の不正請求事件が世間を騒がせています。

ビッグ社が修理を依頼された自動車にゴルフボールや紙やすりでわざと傷をつけるなどして、保険金を水増し請求していたというにわかには信じがたい事件で、かつてバイクに乗っていた身として、信じて預けた愛車にそのような行為をされていたという自動車のオーナー様の心痛は大変なものかと思います。

ビッグ社の問題については他に譲るとして、ここでは損保会社側の問題について考えてみたいと思います。


日本保険業界史における最大級スキャンダルの可能性


一部報道では、損保会社側もそのような不正請求が行われていることを知っていたといわれています。報道ではマイルドに「不正請求」というワードを用いているのでしょうが、これは保険金詐欺にほかならず、損保会社が保険金詐欺の存在を知りながらそれを告発もせず、詐欺を働いた会社と取引を続けていたということになれば、損害保険の信頼を揺るがす大問題です。これが個社の問題にとどまらず、業界全体の問題となれば、日本の保険業界の歴史でも最大級のスキャンダルということになるでしょう。 

2000年代に保険金の不払いが大きな問題になりましたが、私見ではそれをはるかに超える大問題になりうると思っています。というのも、保険金の不払い問題は、極めて悪質な「意図的な不払い」と事務ミスやビジネスモデルの設計ミスによる「支払い漏れ」に分けられますが、前者はあくまでも特定個社の問題であり、業界全体の問題ではありませんでした。

損保会社が具体的な不正を知りながらそれを見逃していたとなれば悪質さは極めて高く、もし仮にそれが業界横断的なものだったとなれば損害保険業界の地盤を揺るがす問題になるでしょう。 

また、損保会社が保険金詐欺を知っていたかどうかは当然として、見抜けなかったのかも問われることになります。ビッグ社で修理した案件の損害額が他と比べて明らかに高かったことを把握していたのか、把握していながら疑問に思わなかったのかなど、損保会社もうすうす感づいていたのに自社の保険を強力に販売してくれるビッグ社に忖度して指摘をしなかったというような実態がなかったのかどうかが問題になるでしょう。


保険商品のわかりにくさ・売れにくさが引き起こした問題だった!


ところで、ビッグ社は保険代理店に過ぎず、本来は保険会社から管理・指導を受ける立場なのに、なぜこのような問題が生じたのでしょうか?

それは、保険商品がとても「わかりにくく」、それゆえに「売れにくい」商品であることが原因であると思います。

保険商品というのはとても特殊な商品で、買ったからといって消費者になにかわかりやすいメリットがあるわけでもないにもかかわらず、安くはない金額を長期間払い続けるというものです。そういう意味ではかなり哲学的な商品であり、本来、こういった商品を売ることは容易なことではないため、保険会社と「売れる」代理店の間での力関係の逆転が生じます。

ここで、もし消費者の側に保険商品を理解して本当に良いものを見抜く力があれば、そこまで代理店の力は強くはならないでしょう。「おいしい」とか「おもしろい」とか、直感的に理解できるものは消費者からみて「分かりやすい」商品であるため、「売る力」よりも商品のよしあしが売れ行きを決めることになります。

「わかりにくい」商品の筆頭格であろう保険商品については、代理店が「どれを売ろうとするか」が売れ行きに対して決定的な影響力を持つこととなります。ビッグ社に関する疑惑が出てきて以降、損保会社はビッグ社の修理工場の紹介をストップしていたところ、一部の損保は紹介を再開し、その代わりにその損保の商品を売ってもらっていたというような報道も出ているところです。


保険会社による代理店の管理・指導は可能なのか?問われるフェアなマーケット形成


金融庁も、保険代理店が消費者の利益にかなわない商品を販売すること(例えば、より適切な商品があるのに手数料の高い商品を消費者に勧めること)をなんとかしてやめさせようとはしていますが、保険金詐欺を見逃してくれる会社の商品を推奨していたという話なのであれば言語道断としかいいようがありません。保険代理店は保険業法で規制されている業種であり、登録なしでは保険募集ができません。保険業法違反があった場合や保険募集に関し著しく不適当な行為をした場合は登録を取り消されることになりますから、おそらく登録の取り消しは免れられないのではないでしょうか。

 また、代理店制度そのもののあり方も考える必要があります。力関係が容易に逆転しうるのに、保険会社が代理店を管理・指導するという制度が本当に実効的に機能するのか、形骸化していないかなどしっかり検討する必要があるでしょう。力関係が逆転している状態で、力の弱い保険会社が力の強い代理店を管理・指導するというのは果たして実効性があるといえるのでしょうか? 

今回の問題に限らず、一部の力のある保険代理店が保険マーケットの競争を歪めているとの指摘は常々なされているところです。フェアなマーケットの形成が望まれます。