コラム

2023-07-20 17:11:00

【後編】明るく過ごした方がお互いに楽しい。大切に日々を慈しみながら、“日本一周旅行”の再開を夢見て サニージャーニー こうへいさん

 前編では妻であるみずきさんのがんと診断されるまでの経緯や、ユーチューブ配信がお二人にとって収入面でも生きるモチベーションという意味でも欠かせない基盤であることなどをうかがいました。後編ではさらに、若くして闘病生活に入るうえでの発見や想いを、そしてこれからの夢についてもお聞かせいただきました。

がんの治療生活は先が見えないので、がんとわかると「治療費をどうしよう?」という不安を真っ先に考えるケースはとても多いようです。けれど実際は、治療以外にも生活は続くわけですから、仕事をする時間が減ると収入が減るため、生活全体のお金への不安がとても大きい…ということは、実際にがんに罹患しないと想定が及びにくいということをよく耳にします。サニージャーニーのお二人はどうだったのでしょうか。

【サニージャーニー/こうへい】 旅系カップルユーチューバー「サニージャーニー」として活動中。32歳ですい臓がんのステージ4を宣告された妻・みずきと夫・こうへいによるユニット。2022年4月に軽キャンピングカーで沖縄を皮切りに日本一周旅行を計画し、旅の模様をユーチューブで配信し評判となる。2022年11月、がんであることを動画で報告、以降チャンネル登録者数は23万人を超え、旅だけでなく現在はすい臓がんにまつわる情報発信も行いながら、持ち前の明るさを失わず治療を続ける妻を全面的に支援しつつ、コンテンツ制作を担っている。YouTubeはこちらから


旅出発前にリスク対策を講じるも、まったく想定外の事態に遭遇。役立ちそうな情報はいざというときのために知っておくべきと痛感


「僕たちもやはり、がんがわかってすぐは “お金をどうしよう?”ということを考えました。そしてすぐ、生命保険に入っていたらよかったな、と思いましたよ。旅系ユーチューバーでしたから、がんによって旅が続けられなくなったら収入が減るし、これからどれくらいお金がかかるのかのイメージが全然できませんでしたから。しかも実は日本一周を始める前に保険に入ろうか、なんて話していたのに忙しさにかまけていたり、何よりまだ若いしね、っていう感じでそのままにしてしまったんですよね…。生命保険に入っていたら、少なくとも安心につながっただろうな、と思いますよね。

日本一周の旅はこの軽キャンピングカーで。二人の念願を支える相棒だ

備えという観点で言えば、僕らを反面教師にしてほしいな、というか 。貯蓄が充分でないのであれば、生命保険に入っておいた方がいいとは思います。こんなに若くてもがんになるのだから。不測の事態によって働けなくなるというのは誰にでも起こり得るので、そのときになってどうようと考えてもちょっと遅いな、という実感を持っています。僕らもホント、すい臓がんにみずきがかかるなんて想像すらしていなかったですし」と、こうへいさんは当時の不安な心境を振り返りながら、こうも重ねました。

「実は、僕に何かあったときに二人の生活を支えるための計画、というのはずっと念頭にあったんですよ。そうなったときにみずき一人でユーチューブをやるのは難しいよなぁ、と。でもまさか、みずきが病気になるという想定がまったくなかったんです」。

あらゆる想定をしながら社会人は生きているものですが、全然想定しない方向から物事が起きることで困難となっていくのが人生なのかもしれません。


生命保険の買取りサービスについて知ったとき、率直にどう思った?


「ちょうどそんなふうに考えていたとき、生命保険の買取りというサービスがあることを聞きました。我妻さん(ライフシオン代表)から連絡を受けた際、がん患者の生命保険を買い取ることで事業社側はどこでキャッシュポイントにするんだろう?と疑問でした。でも、その説明を聞くと“え、素晴らしいサービスだな!”と思ったんです。

簡単に言うと、売却した契約者が亡くなることで保険金が入る。それが事業社に利益となる仕組みですが、それについてネガティブな意見を言う人もいるかもしれません。ですがそういう意味なら葬儀屋さんとかも同じ仕組みですし、困っている人がいるならこういう方法でお金を得られるよ、ということをサービスとしてやろうとする、その志がすごいなと思いました。いろんなことを言われるでしょうに、精神力も意志も素晴らしいことだと素直に思いました」。

みずきさんが若くしてがんとなりお金の心配があるというニュースがメディアを賑わせていたとき、ライフシオンをはじめ、さまざまな情報がこうへいさんの元へ寄せられていました。生命保険料を払い続けることが困難になる、そんな局面も起こり得ることから生命保険の売却による資金調達方法をひとつの選択肢として、サニージャーニーのお二人にもお知らせしたかったのでした。


こうへいさんが自らの意志でやめたこととは。「何よりも妻を優先する」という決意の顕れ


がんは患者当事者だけでなく、身近で共に過ごす家族の問題でもあります。現在、家のことはすべて担っているというこうへいさんですが、パートナーががん治療を始めたことで起きた変化は他にもありました。

「家族側もそれはもちろんつらいことがありますが、そうは言っても患者が1番つらいのは間違いないこと。だから何よりも妻を優先する、と決めています。1番自分のなかで大きな意思決定というのが…。人によっては伝わりにくい話かもしれないのですが、サーフィンをやめたことです。10数年サーフィンをやってきて旅の間も続けていて、ずっと生活の中心にありました。人生を設計していくうえでサーフィンは欠かせないものだったんです。リゾートバイトをするときも波がある場所でしかやらない、と決めていましたしね。辞める必要があったのか?と聞かれれば、明確です。サーフィンをしていると常に波のことを考えてしまうので、“何よりも妻を優先したい” と思うならばいったんやめようと。もちろんやろうと思えばできるでしょうけれど、こんなに自分にとって大切なサーフィンを、誰かのためにやめるんだ、ということは僕にとってものすごく大きなことでした」。

そんなに大切なものもやめてしまって、患者を支える家族として息抜きができるのだろうか…と、少し余計な心配もしてしまうのですが、みずきさんに出逢うまで1人でなんでも自己完結でき人に執着することのなかったこうへいさんが、生まれて初めて「一緒に生きていきたい」と心から願ったのがみずきさんだったのです。

「…なので、余命宣告を受けて未来が崩れ落ちた当時は本当にショックでした」。みずきさんを何よりも優先する。このこうへいさんの決意は、がんが治ることを信じる想いそのものとも言えるのです。


時間の有限を痛感し、やりたいことはすぐに行動へ。病気を治すことに欠かせない、さまざまな力に支えられている今


動画での明るいみずきさんの姿が印象的です。こうへいさんによると、みずきさんは治療のつらさをこぼすこともほとんどなく、副作用のつらい抗がん剤治療も「治るための治療だから」と、前向きに臨み、お互い一緒にいられる時間を大事に過ごそうとしているそう。

「仮にどこかで寿命が尽きてしまったとしても、それまでは明るく過ごしていたいと以前より強く思うようになりました。時間って有限なんだな、と改めて思いました」。

明るく過ごしていたいと語るこうへいさんにとって、みずきさんの前向きさが与える意味は大きい

「だから、やりたいことは後回しにしない。これは病気になって1番二人が大きく変化したことだと思います。それまではなんとなく後回しにすることもよくあったんですよ。やりたいことというのは、つらい治療を乗り越えるモチベーションにもなっているようです。生きる力は病気を治すことに欠かせないけれど、見えない部分で大きな力になっているんだろうな、と思いますし、それにいろんな方に支えられているんだな、と自分たちだけで実現できているのではないんだな、と思えるようにもなりました。

あと、以前はささいなことでよくケンカをしていたんですが、今はもう二人とも怒らなくなりました。元々僕は保育士をしていたこともあって、怒らないという勉強をしましたが、今一番大変な人は誰か?ということをいつも考えています」。


 がんと共に生きる生活となり、いろいろの面で自ら変容を経験したこうへいさん。今改めて思うことは?


「1番の願いはみずきのがんが治ること。そして、途中となっている日本一周を完遂すること。僕たちが楽しんで、たくさんの方々が観てくれていたので、最後までやり遂げたいと思っています」。 迷いなくそう答えるこうへいさんは、同年代の一般的な夫婦よりも健康の大切やさ、不測の事態へ備えることのリアリティを痛感しながらも、今目の前のみずきさんとの夢の途中を一歩一歩着実に歩んでいるのでした。