コラム
先進医療とは?種類や費用が高額な理由など簡単に解説

がん治療において「先進医療」という言葉を耳にすることが増えましたが、実際にどのような医療を指すのか、正しく理解している方は多くありません。
先進医療は、厚生労働大臣が認めた高度な医療技術であり、公的医療保険の対象外ながら、安全性や有効性が評価されている段階の治療です。
この記事では、先進医療の定義や標準治療との違い、費用が高額になる理由、受けるための方法や注意点までをわかりやすく解説します。
▼この記事の監修者
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東京大学医学部医学科卒業。
<保有資格>
日本呼吸器学会認定呼吸器内科専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
先進医療とは?
先進医療とは具体的にどのような医療技術なのか、まずはその定義と制度の概要について見ていきましょう。
先進医療は厚生労働大臣が認めた高度な医療
先進医療とは、厚生労働大臣が認可した高度で先進的な医療技術のことです。公的医療保険ではまだ給付の対象とされていないものの、一定の安全性・有効性が見込まれる技術であり、将来的な保険導入を見据えて評価されている段階の医療です。
令和7年2月1日現在では、74種類の技術が厚生労働省により「先進医療」として認められています。
どうして先進医療は高額なのか?
先進医療は、公的医療保険の適用対象外となっているため、該当する治療部分については全額自己負担となります。これが、費用が高額になる最大の理由です。
ただし、先進医療と併用する基本的な診察・検査・入院費などの部分は保険が適用される「保険外併用療養費制度」があるため、全てが自己負担になるわけではありません。
それでも、数十万円〜数百万円の費用がかかるケースもあるため、費用の準備が必要です。
また、技術自体が最新で高度なものになるため、専用の設備や熟練の医療スタッフが必要になることもコストが高い要因です。
がんにおける先進医療と標準治療の違い
がん治療における「先進医療」と「標準治療」は、その目的や科学的根拠の確立度に違いがあります。
標準治療は、長年の臨床研究やデータにより、効果と安全性が科学的に確立されている治療法であり、公的医療保険の対象です。手術・放射線治療・抗がん剤などが該当します。
一方、先進医療は効果や安全性が十分に確立されたとは言い切れないものの、将来的な実用化を目指して臨床的な評価を受けている段階の医療です。たとえば、「重粒子線治療」や「陽子線治療」などが代表例です。
多くのがん患者にとっては、科学的根拠が確立され、効果が証明された「標準治療」を受けることが、最も信頼性が高く優先すべき治療であるとされています。
標準治療の正しい理解と実施こそが、がん治療の基本であることを忘れてはなりません。医師と話し合いつつ、先進医療を受けることが良い選択であるかどうかを判断しましょう。
また、注意すべきなのが「民間療法」です。これは、科学的根拠が乏しい、あるいは一切示されていない治療法を指し、「がんが治る」との宣伝文がよくみられます。たとえば、特定の健康食品、温熱療法、特殊な水、断食療法などがこれにあたります。
・山本康博先生より
先進医療は期待の大きい選択肢の一つですが、効果とリスクのバランスを見極めることが重要です。がん治療では、標準治療が「科学的に最も信頼できる方法」であるという原則を忘れず、治療選択は必ず医師との相談の上で行いましょう。
これらの多くは医療機関で推奨されておらず、効果が証明されていないだけでなく、誤った治療を信じて標準治療のタイミングを逃すことで、がんが進行してしまうというリスクを伴います。
がんに関する先進医療の種類

がんに関係した先進医療には、下記2つがあります。
- 陽子線治療
- 重粒子線治療
それぞれ詳しく見ていきましょう。
陽子線治療
陽子線治療は、陽子という粒子を体外からがんの病巣に照射する放射線治療の一種です。頭頚部のがん(脳腫瘍を含む)をはじめ、肺や縦隔、消化管、肝胆膵、泌尿器、乳腺、婦人科領域の腫瘍、さらには転移性腫瘍にも適応されており、いずれも根治が見込める場合に限って行われます。
陽子線は、水素原子の原子核から取り出した陽子を加速し、高速でがん組織に届ける「粒子線」と呼ばれる放射線の一種です。これに対し、一般的な放射線治療では、X線やガンマ線といった「光子線」が用いられており、体内を通過する際に正常な組織にも放射線が届いてしまうという課題がありました。
陽子線は、体内のある一定の深さで止まる性質を持つため、がん細胞を破壊する一方で周囲の健康な組織へのダメージを最小限に抑えることができます。
重粒子線治療
重粒子線治療は、炭素イオン線をがんに集中させる治療法です。対象となるのは、肺や縦隔、消化管、肝胆膵、泌尿器のがん、転移性腫瘍であり、いずれも根治を目指せる症例に限定されます。
炭素イオンは放射線の中でも特に質量が重く、エネルギーの密度が高いことが特徴です。がん細胞を破壊しつつ、正常組織への影響を抑えることができます。
炭素イオンを光の速度の約70%にまで加速させ、がん組織のある体内深部に向けて正確に照射します。X線などの従来の放射線治療では、放射線が体を通過する過程で前後の正常組織にもダメージを与えてしまいますが、重粒子線は影響力が最も現れる深さを設定できます。そのため、正常な細胞へのダメージを抑えつつ、がん細胞の破壊が可能です。
さらに重粒子線治療では、がんの形や位置に合わせて、照射する範囲や角度を細かく調整できます。
がん先進医療の費用とは?
がんの先進医療にかかる費用は、一般的な医療と異なり、特別な費用構造となっています。大きな特徴は、「先進医療の技術料」が公的医療保険の対象外であるという点です。これは、厚生労働大臣が認めた高度な医療技術でありながら、まだ保険導入のための評価段階にあるためです。
一方で、先進医療とあわせて行われる診察料、検査料、投薬料、入院料といった通常の医療行為に関しては、健康保険が適用され、自己負担は原則として3割(年齢や所得に応じて2割または1割)で済みます。
がんの先進医療の自己負担額と治療費シミュレーションについて詳しく見ていきましょう。
がんの先進医療の自己負担額
がんに対する代表的な先進医療である「陽子線治療」や「重粒子線治療」は、いずれも非常に高度で専門的な技術が必要とされるため、技術料だけでおよそ300万円前後がかかります。
公的医療保険の対象外であるため、全額負担しなければなりません。
ただし、先進医療と並行して行われる診察、血液検査、画像検査、薬剤の投与、入院に関わる費用などについては、通常の保険診療と同様に健康保険が適用されます。
先進医療の治療費シミュレーション
65歳の男性が前立腺がんの治療として重粒子線治療を受け、10日間入院したケースを想定して、自己負担額のシミュレーションを行ってみましょう。
まず、重粒子線治療の技術料は先進医療として公的保険の対象外となっており、全額自己負担で約320万円がかかります。
次に、入院や診察、検査、薬の費用については、通常の医療保険が適用されます。1日あたりの入院基本料が約2万円で10日間入院した場合、入院費は約20万円です。また、診察料や検査・投薬費などが約10万円で、保険診療分は合計で約30万円になります。
このうち、保険適用部分については、高額療養費制度を利用することで実際の自己負担額は軽減され、自己負担はおよそ8万円程度に抑えられます(条件で異なる)。
さらに、入院中の食事代や日用品などの雑費も含めて約5万円とすると、保険適用分の合計自己負担額は約13万円です。
各費用をまとめると下記のとおりです。
- 重粒子線治療費:約320万円(先進医療・全額自己負担)
- 保険診療自己負担:約8万円(高額療養費制度適用後)
- 入院時の雑費:約5万円
総額での自己負担額はおよそ333万円です。
先進医療を受ける方法

先進医療を受けるには、いくつかの手順を踏む必要があります。前提として、先進医療は全国どこでも受けられるわけではなく、厚生労働省から認可された限られた医療機関でのみ実施されています。
そのため、最初に通院している病院が先進医療を行っていない場合は、対応可能な医療機関を探す必要があります。
また、他の医療機関で治療を希望する場合は、「セカンドオピニオン」として、対象医療機関で診察を受けるのが一般的です。そこで専門医の診断や治療方針の説明を受けたうえで、先進医療の適応があるかを判断してもらいます。紹介状や診療情報提供書が必要になる場合もあるため、まずは主治医に相談しましょう。
先進医療を受ける時の注意点
先進医療を選択する際には、いくつかの注意点があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
治療費が高額になる可能性
先進医療の大きな特徴の1つが、「技術料」が全額自己負担となることです。陽子線治療や重粒子線治療といった先進医療では、300万円前後の費用がかかる場合も珍しくありません。通常の診察料や検査料、入院費などには保険が適用されますが、技術そのものにかかる費用は原則として全額自己負担となるため、経済的な備えが必要です。
効果とリスクを理解する
先進医療は、従来の治療法では対応が難しい症例にも適用が検討される一方で、標準治療に比べて科学的根拠の蓄積がまだ不十分な段階の医療技術です。
たとえば陽子線治療や重粒子線治療では、正常組織への影響を抑えつつ高精度でがんに放射線を集中できるという利点がありますが、その治療効果はがんの種類や進行度、患者の体調によって大きく異なります。
また、皮膚の炎症、倦怠感、食欲不振などの副作用が起こる可能性があります。
先進医療という言葉の響きから「すべての人にとって最良の治療法」と誤解されがちですが、実際には標準治療が最善であるケースも多くあります。そのため、効果やリスクをしっかり理解したうえで、主治医と十分に相談し、自分に合った治療法を見極めることが不可欠です。
治療を受けられる医療機関が限られている
先進医療は、実施できる施設が全国的に限られているのも特徴です。陽子線治療は全国で約20ヶ所、重粒子線治療はわずか7ヶ所の医療機関でしか受けることができません(※2025年2月1日時点)。
そのため、自宅近隣の病院で対応できない場合は、遠方の医療施設まで通院が必要です。とくに高齢者や体調が不安定な患者にとっては、長距離の移動や長期の滞在が心身の負担となるケースもあります。
また、セカンドオピニオンや紹介状が必要になることも多く、現在かかっている医師との連携も欠かせません。生活環境を含めた総合的な見直しが必要になるため、治療前には通院計画や家族のサポート体制も含めて検討しておくことが重要です。
高額な先進医療、納得のいく選択をするために
先進医療は、将来の保険適用を見据えて臨床評価が行われている段階の医療技術です。その最先端性ゆえに高額な費用がかかる一方で、受けられる医療機関が限られている、効果や副作用に不確実性があるなど、いくつかの注意点もあります。
今回の記事では、先進医療の基本的な制度やがん治療における先進医療、費用の仕組みやシミュレーション、受けるための流れや注意点を紹介しました。
大切なのは、先進医療を「特別な希望」として盲目的に選ぶのではなく、自身に適した治療法を選択することです。医師との十分な対話を通じて、ご自身やご家族にとって最善の治療方針を見つけることが、心から納得できる医療につながります。
・山本康博先生より
先進医療は経済的・地理的な制約が大きいため、十分な情報と準備が不可欠です。治療内容だけでなく、生活環境やサポート体制も含めて総合的に検討することで、後悔のない選択につながります。