コラム
家族が癌になったら絶対してはいけないこと、知っておくべきことを解説

家族ががんと診断されたとき、多くの人が動揺し、どう対応すべきか迷うのは当然のことです。大切な人の病気に直面すると、感情が先走ってしまいがちですが、患者の心と体に寄り添いながら支えるためには、冷静に、正しい知識と適切な態度を持つことが何より大切です。
本記事では、家族ががんになったときに「絶対にしてはいけないこと」と「できること」について、具体的な接し方や支援のポイントを解説します。
▼この記事の監修者
山本康博 先生
呼吸器内科専門医
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい院長東京大学医学部医学科卒業。
<保有資格>
日本呼吸器学会認定呼吸器内科専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
家族ががんと診断された時に知っておきたいこと
ご家族ががんと診断されたとき、多くの人が「何をどうすればいいのか」と戸惑いや不安を抱えます。しかし、がんという病気は決して珍しいものではなく、今や多くの人が向き合いながら、治療と生活を両立しています。まずは落ち着いて、病気の正しい知識を持つことが第一歩です。
ここでは、がんという病気の基本的な性質や、治療の流れ、相談先などについてわかりやすく解説していきます。
がんという病気について
がんという病気は、今や誰にとっても身近な存在になっています。2020年には、実に約94万人が新たにがんの診断を受けました(男性約53万人、女性約41万人)。こうした数字からもわかるように、がんは決して特別な病気ではありません。多くの人が経験し、多くの人が治療を受けています。
そして、がんは「治療が可能な病気」になってきています。医療の進歩により、がんの種類や進行度によっては長期的なコントロールが可能となり、仕事を続けながら、あるいは日常生活を送りながら治療を受けている方もたくさんいます。「がん=すぐに生活が変わる、働けなくなる」と考えるのは早計です。
しかし、治療を始める前に「がんになったらすぐに仕事を辞めないといけない」と思い込み、ショックのあまり退職してしまう方もいます。こうしたケースを「びっくり退職」といいます。家族としても、正しい知識を持ち、冷静に現実と向き合うことが何より大切です。
出典:がん情報サービス 「最新がん統計」
がんの治療の流れ・概要
がんと診断されたとき、多くの方が「これから何をすればいいのか」「どんな治療が待っているのか」と不安を抱えます。しかし、がん治療は段階的に進められるものであり、一歩ずつ理解していくことが大切です。
まずは、がんが本当にあるかどうかを確定するために、組織を採取して行う生検や、CT、MRI、PETなどの画像検査が行われます。
これによってがんの種類や大きさ、他の臓器への広がりなどが明らかになり、病期(ステージ)が決まります。そのうえで、治療の目的が「治すこと」なのか「進行を遅らせること」なのかを医師と話し合い、治療方針が決定されます。
がんの治療法には主に手術、放射線治療、薬物療法があり、がんの種類や部位、進行度、本人の体力や希望などを踏まえて決めます。
治療を始める前には、わからないことをきちんと医師に尋ねることが重要です。たとえば「この治療の目的は何か」「他の選択肢はあるか」「副作用とその対処法は」「通院と入院、どちらが必要か」「日常生活や仕事への影響はどうか」など、気になることは遠慮なく聞きましょう。
また、治療について不安な気持ちがあるときは、医師や看護師、がん相談支援センターなど、専門のスタッフに相談することも忘れないでください。がんは、もはや特別な病気ではなく、多くの人が治療を受けながら生活を続けています。正しい知識と信頼できる医療者との連携があれば、不安を軽減し、前向きに治療へと進んでいけるはずです。
家族が癌になったら絶対してはいけないこと

がんと診断された本人は、大きな衝撃を受けるものです。その事実を知る家族も、強い不安や戸惑いを抱えることでしょう。しかし、その不安をそのまま本人にぶつけてしまうと、知らず知らずのうちに心身の負担を増やしてしまうおそれがあります。
がん患者を支える家族にとって大切なのは、「何かをしてあげること」よりも「どう接するか」に意識を向けることです。ここでは、家族が気をつけるべき接し方のポイントについて解説します。
患者の気持ちを考えない言動
がんを患う本人にとって、病気の告知そのものが強いストレスであり、さまざまな感情が渦巻いているものです。そのような中で、家族があまりにも悲観的な態度を取ったり、「かわいそう」「どうしてこんなことに」といった言葉を口にしたりすると、本人は自分の存在が家族の重荷になっていると感じるかもしれません。
反対に、元気づけたい一心で明るく振る舞うことを強要するのも避けるべきです。無理に笑顔を求めたり、「大丈夫、大丈夫!」と根拠なく励まし続けることは、かえって孤独感を深めることになりかねません。本人の気持ちに寄り添い、無理に方向づけようとせず、「そばにいること」そのものが支えになるのです。
・山本康博先生より
医療現場でも、患者さんは「励まされすぎること」に疲れてしまう場面が少なくありません。寄り添うとは、無理に元気づけることではなく、感情を否定せず受け止める姿勢です。沈黙も、時に最も力強い支えとなります。
患者の生活に過剰に干渉する
がんと診断されたからといって、すぐに生活のすべてを制限しなければならないわけではありません。家族が心配のあまり、主治医の指示とは関係なく勝手に厳しい食事制限を課したり、仕事や趣味、外出をすべてやめさせたりすると、本人の自由や尊厳を奪うことになってしまいます。
本人が「自分らしく過ごす」ことを大切にしているのに、それを阻害してしまっては、生活の質(QOL)が大きく損なわれてしまいます。医師と相談したうえで、できる限り本人の意思やペースを尊重し、さりげなく支えることが望ましいでしょう。
治療方法を押し付ける
どの治療を受けるかを最終的に決めるのは本人です。家族が「この治療がいいらしいよ」と情報を伝えること自体は問題ありませんが、それを押し付けたり、「この方法しかダメ」と一方的に決めつけることは避けましょう。
特に、医師の治療計画とは無関係な民間療法を強くすすめる行為や、本人が希望しているセカンドオピニオンの機会を否定するような発言は、結果として治療の妨げになることもあります。
大切なのは、本人が納得して治療方針を決められるよう、情報収集や意思決定の過程に寄り添いながら支えることです。
お金の話を避けること
病気の話の中で、お金のことを話題にするのは気が引ける方も少なくありません。しかし、がん治療には思いのほか費用がかかる場合があり、治療が進んでから経済的に困窮するケースもあります。
加えて、高額療養費制度や医療保険、公的支援などを適切に活用できず、本来受けられる援助を見落としてしまうこともあるでしょう。
お金の話をあえて避けるのではなく、早い段階で一緒に確認しておくことで、安心して治療に専念できる環境を整えることができます。信頼できる相談窓口も活用しながら、オープンに話し合う姿勢を持つことが大切です。
・山本康博先生より
がん治療は長期にわたることが多く、経済的な見通しを立てることも治療の一部です。制度や保険の知識を早めに共有しておくことで、患者さんが「安心して治療に集中できる環境」を整えることができます。
家族が癌になったらすべきこと

家族ががんと診断されたとき、何をどう支えたらいいのか迷う方も多いでしょう。目の前の大切な人が病気と向き合う中で、家族としてできることは多くあります。
ただ一方的に「何かしてあげなければ」と焦るのではなく、患者本人の心に寄り添いながら、無理のない範囲で支えていくことが大切です。
家族が癌になったら、次のように対応しましょう。
患者本人の気持ちに寄り添う
がんと診断されたとき、本人は強い不安や恐怖を感じています。命に関わる病気というだけでなく、これからの治療や生活の変化、仕事や家族への影響など、さまざまなことが頭をよぎるのです。
そのようなとき、家族が黙って隣にいてくれるだけでも、大きな安心感を得られます。必要以上に励まそうとせず、否定もせず、まずは本人の気持ちに耳を傾けることが大切です。
病気の情報を集める
がんという病気に向き合うには、正確な情報を得ることが重要です。医師からの説明をきちんと理解し、治療方針や病状について本人が把握できるようサポートすることで、本人の安心感にもつながります。不安なことがある場合は、病院内にある「がん相談支援センター」へ相談してみるのも一つの方法です。
また、必要に応じて家族が医師に質問し、本人の希望を伝える役割を担うことも大切です。一方で、インターネットなどから情報を集める場合には注意が必要です。民間療法や根拠のない治療法に関する情報も多く、中には詐欺まがいのものもあります。信頼できる公的機関や専門医による情報を選ぶようにしましょう。
経済的な負担を軽減するためのサポート
がんの治療には、手術や抗がん剤、放射線などの高額な医療費がかかることがあります。そのため、家族として経済的な面でもサポートできる準備が必要です。
高額療養費制度や医療費控除、傷病手当金など、公的支援制度を活用することで負担を軽減できます。また、加入している医療保険の補償内容も忘れずに確認しましょう。
本人が制度について把握しきれないこともあるため、家族が一緒に手続きを進めていくことが、安心して治療を続けるための助けになります。
治療や生活のサポート
がん治療は長期にわたることが多く、通院や入院が必要になる場面も少なくありません。治療のスケジュールを把握し、必要に応じて付き添いや送迎を行うなど、日々の生活を支えるサポートが重要です。
また、体調に波があるなかで、家事や食事づくり、買い物などの負担を減らす手助けも求められることがあります。本人の「できること」と「助けが必要なこと」を話し合いながら、無理のない形で支えていく姿勢が大切です。
家族や親ががんになったあなたへ
家族ががんと診断されたとき、支える立場のあなた自身もまた、大きなストレスや不安を抱えることになります。どれだけ相手のことを思って行動しても、「これでよかったのだろうか」と悩んだり、自分の時間や気持ちを後回しにしてしまいがちです。あなた自身が健やかであることは、本人を支えるうえで何よりも大切です。
自分を大切にする
がん患者を支える立場にいると、「自分のことなんて後回しでいい」と思ってしまうかもしれません。しかし、精神的にも体力的にも負担が続けば、心がすり減ってしまいます。ときには、自分自身の気持ちにも正直になり、疲れているときは無理をしないことが必要です。
支える側が倒れてしまっては、共倒れになってしまうからです。まわりの人に頼ること、医療従事者に相談すること、カウンセラーなど専門家のサポートを受けることも、立派な自己管理です。自分の人生も大切にしながら、家族とともに乗り越える道を歩んでいきましょう。
家族ががんになったときの正しい向き合い方とサポートのポイント
がんは、患者本人だけでなく、家族にとっても大きな試練となる病気です。しかし、必要以上に恐れたり、不安をあおるのではなく、正しい知識を持って落ち着いて向き合うことが、患者にとっても支える側にとっても前向きな第一歩になります。
大切なのは、患者の気持ちを尊重しながら、必要な場面でそっと手を差し伸べることです。そして、あなた自身の心身の健康も決しておろそかにしないことです。がんと向き合う家族には、「何か特別なことをする」よりも、「ともにいること」「見守ること」「話を聞くこと」が、何よりの支えとなります。
焦らず、一歩ずつ、無理のないペースで、家族としてできることを積み重ねていきましょう。