コラム

2025-05-01 19:25:00

肺がんの余命は?ステージ別の生存率や原因・症状も解説

胸に手を当てる女性

肺がんは、日本におけるがんの中でも死亡率が特に高い疾患の1つです。早期にはほとんど症状が現れないことも多く、気づいたときにはすでに進行しているケースも少なくありません。

そのため、「余命はどれくらいなのか」「ステージによって生存率はどう違うのか」といった情報を知っておくことは、治療の選択や心の準備をする上でも大切です。

この記事では、肺がんの主な原因や症状の特徴をはじめ、ステージ別の生存率や治療法についてわかりやすく解説します。

▼この記事の監修者

山本康博 先生
山本康博 先生
呼吸器内科専門医
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい院長

東京大学医学部医学科卒業。

<保有資格>
日本呼吸器学会認定呼吸器内科専門医
日本内科学会認定総合内科専門医

肺がんとは?原因と症状を解説

肺がんは、肺の中にある気管支や肺胞などの細胞が異常な増殖をはじめ、腫瘍となる病気です。肺がんは、がん細胞の種類によっていくつかのタイプに分類されます。

代表的な組織型は、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4つです。このうち、最も多いのが腺がんで、肺がん全体の半数以上を占めます。

肺がんの原因や症状について詳しく見ていきましょう。

肺がんの原因

肺がんは、肺にある正常な細胞の遺伝子に傷がつき、その結果として異常な増殖が起こることで発症します。遺伝子の損傷を引き起こす原因はさまざまですが、最も大きな影響を与えるとされているのが「たばこ」です。

たばこを吸っている人は、吸わない人に比べて、男性で約4.8倍、女性で約3.9倍も肺がんを発症する確率が高いとされています。

たばこ以外にも、アルミニウムの粉じん、ヒ素を含む化合物、建築資材などに含まれるアスベスト(石綿)といった物質に長期的にさらされることでも、肺の細胞にダメージが蓄積され、がんの発症につながることがあります。

・山本康博先生より
たばこは肺がんの最大のリスク因子ですが、非喫煙者でも発症するケースはあります。とくに女性の腺がんや、職業的曝露歴のある方は注意が必要です。健康診断や画像検査を通じて、早期発見の意識を持つことが重要です。

参考: 日本医師会「肺がん検診 肺がんの原因」

肺がんの症状

肺がんは、早期にはほとんど自覚症状が現れないことも少なくありません。がんがある程度進行すると、咳(せき)や痰(たん)、血痰(けったん)、胸の痛み、発熱、息切れなどが現れる場合があります。

ただし、これらの症状は肺がん特有のものではなく、風邪や気管支炎、肺炎などの呼吸器の病気でも同様に見られることがあります。そのため、「咳が出るから肺がんだ」「熱があるからがんかもしれない」とすぐに決めつける必要はありませんが、逆に「たいしたことはない」と放置してしまうのも危険です。

とくに、いつもと違う咳が続く、血の混じった痰が出る、微熱が長引くなど、気になる症状が続く場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。

肺がんの各ステージの状態と余命・生存率

医師が患者に説明している様子

肺がんには「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」の2種類があります。

非小細胞肺がんには、以下の3種類があります。

  • 腺がん:肺野(肺の末梢)に多く発生し、肺がんの中で最も頻度が高い。
  • 扁平上皮がん:主に肺門(肺の中心部)に発生し、喫煙との関連が強い。咳や血痰などの症状が出やすい。
  • 大細胞がん:肺野に多く見られ、増殖が速い。

小細胞肺がんは、肺門と肺野のどちらにも発生しやすく、進行が非常に速いのが特徴です。転移しやすく、喫煙との関連も大きいとされています。

各ステージの定義や余命・生存率についても異なります。

小細胞肺がんのネット・サバイバルは11.5%、非小細胞肺がんは47.5%です。ネット・サバイバルは期待生存率ではなく、純粋に「がんのみが死因となる状況」を仮定して算出する純生存率のことです。

肺がんの進行の程度は「ステージ(病期)」として分類され、I期(ステージ1)・II期(ステージ2)・III期(ステージ3)・IV期(ステージ4)と進むにつれて、がんの進行度が高くなります。

ステージの判定は、原発巣の大きさや広がり(T分類)、リンパ節転移の有無(N分類)、遠隔転移の有無(M分類)の3つの要素(TNM分類)を基に決定されます。

ここでは、肺がんのステージ別の生存率を解説します。

出典: がん情報サービス「院内がん登録生存率最新集計値」

肺がんステージ0(0期)

ステージ0(0期)は、肺がんの最も早期の段階にあたります。肺の粘膜内にとどまり、他の組織へ広がっていない状態です。医学的には「Tis(上皮内がん)」と分類され、がん細胞の充実成分がほとんど見られず、がんの大きさも3cm以下と極めて小さい特徴があります。

肺がんステージ1(I期)

ステージ1の肺がんは、がんの大きさが4cm以下であり、リンパ節転移が認められず、遠隔転移もない状態を指します。

ネット・サバイバルは、小細胞肺がんで43.2%、非小細胞肺がんで82.2%と報告されています。

肺がんステージ2(II期)

ステージ2の肺がんは、がんの大きさが4cmを超え7cm以下、またはリンパ節転移(※N1)が見られる状態を指します。

ネット・サバイバルは、小細胞肺がんで28.5%、非小細胞肺がんで52.6%とされています。

※NI:肺がんと同じ側の気管支周囲かつ・または同側肺門、肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める

参照: がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」

肺がんステージ3(Ⅲ期)

ステージ3の肺がんは、がんの大きさが7cmを超える場合、あるいはリンパ節転移が特定の部位(※N2・N3)に及んでいる状態を指します。

ネット・サバイバルは、小細胞肺がんで17.5%、非小細胞肺がんで30.4%と報告されています。

※N2:同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移がある
※N3:がんがある肺と反対側の縦隔、対側肺門、同側あるいは対側の前斜角筋、鎖骨の上あたりにあるリンパ節への転移がある

参照: がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」

肺がんステージ4(Ⅳ期)

ステージ4の肺がんは、がんが肺以外の臓器に転移している状態を指します。転移の状態に応じて下記に分類されます。

  • M1a:肺がんがある反対側の離れたところに腫瘍がある、胸膜または心膜への転移、悪性胸水がある、悪性心嚢水がある
  • M1b:肺以外の臓器への転移が1つのみ
  • M1c:肺以外の1つの臓器または複数の臓器へ複数の転移がある

参照: がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」

ネット・サバイバルは、小細胞肺がんで2.2%、非小細胞肺がんで9.0%です。

手術ができない肺がんのケース

肺がんの治療では、がんが肺の限られた範囲にとどまっている場合、手術による切除が可能です。しかし、進行の程度によっては手術が適応できないケースもあります。手術ができない肺がんとは、がんが進行しすぎている、または手術に耐えられない健康状態の場合を指します。

手術が適応できない場合、化学療法や放射線治療、免疫療法が中心となりますが、生存率は手術が可能なケースと比べて低くなります。

小細胞肺がんは進行が速く、診断時にはすでに広範囲に転移していることが多いため、手術が適応されるケースは限られます。

手術ができない小細胞肺がんのネット・サバイバルは8.4%、非小細胞肺がんは15.7%です。

出典: がん情報サービス「院内がん登録生存率最新集計値」

肺がんの治療法

治療している様子

肺がんの治療法には、手術や薬物療法などがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

手術治療

手術は、がんを含む肺の一部や、がんが広がった周囲の組織を切除することで病巣を取り除く治療法です。

非小細胞肺がんでは、がんが局所にとどまっているⅠ期・Ⅱ期および一部のⅢ期の方に対して、根治を目的として行います。

手術の方法には、大きく分けて開胸手術と胸腔鏡手術の2種類があります。開胸手術は、胸の皮膚を15~20cm程度切開し、肋骨の間を広げて行う方法です。

一方、胸腔鏡手術は、数ヶ所の小さな切開部から胸腔鏡(細い棒状のカメラ)を挿入し、モニターに映し出される映像を見ながらがんを切除する方法です。近年では、手術支援ロボットを用いたロボット支援肺切除も導入されています。

小細胞肺がんの手術は、がんが比較的早期であるⅠ期・ⅡA期に限られます。通常、手術後には薬物療法(化学療法)を組み合わせて治療を継続します。

小細胞肺がんにおいても、手術の方法として開胸手術や胸腔鏡手術が選択されることが一般的ですが、最近では、皮膚の切開を8cm以下に抑えたハイブリッド胸腔鏡手術も取り入れられています。

放射線治療

放射線治療は、がん細胞を破壊する目的で高エネルギーの放射線を照射する治療法であり、がんの進行を抑えたり、症状を緩和したりする効果が期待されます。手術が困難な方や、病状の進行度合いによっては放射線治療が第一選択となることもあります。

非小細胞肺がんでは、主に切除できないⅢ期の進行がんに対して放射線治療が実施されます。場合によっては、化学放射線療法として薬物療法を組み合わせます。

ただし、化学放射線療法は、単独の放射線治療や薬物療法と比べて、副作用の発現率が高まることが報告されています。

小細胞肺がんにおいては、限局型の方が放射線治療の対象です。非小細胞肺がんの場合と同様に、化学放射線療法として同時に薬物療法を組み合わせる場合があります。

放射線治療では、治療期間中に下記のような副作用が現れます。

  • 皮膚炎
  • 白血球の減少
  • 貧血
  • 食道の炎症 など

通常、治療が終了すると時間とともに改善することがほとんどですが、重症化するケースや治療後数ヶ月~数年が経過してから副作用が現れるケースもあるため、体調の変化に注意することが重要です。

薬物療法(抗がん剤)

薬物療法は、薬の力を用いてがん細胞の増殖を抑えたり、がんの進行を遅らせたりする治療法です。

非小細胞肺がんと小細胞肺がんのいずれにも適用されますが、それぞれのがんの性質に応じた異なる薬剤を使用します。非小細胞肺がんでは、「細胞障害性抗がん薬」「分子標的治療薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の3種類が主に用いられ、小細胞肺がんでは、進行の速さに対応するため、基本的に細胞障害性抗がん薬が中心です。

ただし、進展型の場合は、免疫チェックポイント阻害薬が併用されることもあります。

薬物療法による副作用は、使用する薬剤の種類によって異なり、個人差も大きいです。細胞障害性抗がん薬はがん細胞の増殖を抑える一方で、正常な細胞にも影響を与えることがあり、その結果としてさまざまな副作用が現れます。

主な副作用は、脱毛や口内炎、下痢、白血球や血小板の減少などです。

分子標的治療薬は、がん細胞の増殖に関わる特定のタンパク質を標的として作用するため、正常細胞への影響は比較的少ないとされています。しかし、皮膚の発疹や肺高血圧症、肝機能障害といった副作用が現れることがあります。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫の働きを活性化させてがん細胞を攻撃する作用を持ちますが、その影響で自己免疫反応が強まることがあり、甲状腺機能異常や大腸炎、間質性肺炎などの症状が現れることがあります。

近年では、副作用を軽減するための対策も進んでおり、特に吐き気や嘔吐に対しては予防薬が使用されることで、治療中の負担を軽減できるようになってきています。

免疫療法

免疫療法は、私たちの体に備わっている免疫の仕組みを利用して、がん細胞を攻撃する治療法です。がん細胞は本来、体にとって異物であるにもかかわらず、巧妙に免疫の働きを抑える仕組みを持っているため、免疫細胞からの攻撃を逃れて増殖していきます。

免疫療法では、がん細胞による「免疫のブレーキ」を解除し、再び免疫細胞ががん細胞を認識し攻撃できるようにします。

日本において肺がん治療に有効とされている免疫療法は、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる薬剤を用いた方法のみです。

末期の肺がん、手術ができない場合の選択肢

医師から「手術ができない末期の肺がんです」と伝えられたとき、多くの方が「これからどうすればいいのか」と不安を抱かれることでしょう。

手術ができないからといって治療の道が完全に閉ざされたわけではありません。状況に応じて選べる治療やサポートは複数あるため、本人と家族が納得できる形で日々を過ごすための選択肢を知ることが大切です。

ここでは、末期の肺がんと診断された方がとれる選択肢について紹介します。

・山本康博先生より
手術が適応とならない場合でも、薬物療法や放射線治療によりがんの進行を抑えることは可能です。近年では免疫療法の発展もあり、治療の選択肢は確実に広がっています。あきらめず、主治医とよく相談することが大切です。

最後まで治療を続ける

たとえ手術が適応でないと判断された肺がんであっても、薬物療法や放射線治療などの治療法によって、がんの進行を抑えたり症状を軽減したりすることは可能です。 主治医と相談を重ねることで、自分に合った治療法を模索することができます。また、現在受けている治療に疑問や不安がある場合は、他の専門医の意見を聞く「セカンドオピニオン」を活用することも有効です。

一方で、インターネットや口コミなどを通じて、さまざまな民間療法や高額な先進的な治療を知る機会もあるかもしれません。しかし、民間療法の中には科学的な根拠に乏しいものも多く、かえって健康を損なったり、高額な費用負担が発生したりするなどのリスクもあります。

ここで大切なのは、医学的根拠があるとされる「標準治療」が第一選択であることです。

先進医療に希望を感じる方もいるかもしれませんが、それが本当に必要なものかどうかは、専門医と相談した上で慎重に判断する必要があります。

緩和ケア(在宅・ホスピス)

治療を続けることが難しくなったときや、がんによる痛みや息苦しさ、不安といったつらい症状が強くなってきたときには、「緩和ケア」が選択肢になります。

緩和ケアは、がんの治癒を目指すものではなく、身体的・精神的な苦痛を和らげながら、その人らしい生活を送るための医療です。

緩和ケアには大きく分けて2つの方法があります。1つは、在宅医療を利用して自宅で過ごしながら受ける緩和ケアです。もう1つは、緩和ケア病棟(ホスピス)で医療スタッフのサポートを受けながら過ごす方法です。

在宅緩和ケアでは、家族に囲まれた慣れた環境で過ごすことができ、訪問診療や訪問看護が提供されます。ホスピスでは、医療スタッフによる手厚いケアのもとで痛みの緩和や心のケアを受けながら、穏やかな時間を大切に過ごせるよう配慮されています。

どちらの方法も、本人や家族の希望を尊重した形で選ぶことができます。治療を続けることだけが最良の選択とは限りません。自分がどう過ごしたいかを考え、希望に添ったサポートを受けることが大切です。

肺がんと診断されたら

肺がんの診断は、本人だけでなく家族にとっても大きな出来事です。手術が難しい、末期だと告げられても、治療の選択肢や生活の質を高める支援は残されています。医師とよく話し合いながら、自分らしい生き方を選んでいくことが大切です。不安なときには1人で抱え込まず、周囲のサポートや医療者の力を借りて、納得のいく選択をしていきましょう。