コラム

2024-11-13 19:48:00

膵臓がんの余命はどれくらい?ステージ別の生存率を解説

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膵臓がんは、がんの中でも特に予後が悪いとされるがんの1つです。その理由として、早期発見が難しく、診断時にはすでに進行しているケースが多いことが挙げられます。膵臓がんと診断された際、生存率はどの程度か、どのような治療法があるのかを知っておくことは、患者や家族にとって重要です。

本記事では、膵臓がんの各ステージ別の生存率や治療法について詳しく解説します。

膵臓がんとは

膵臓は、胃の背後に位置する長さ約20cmの細長い臓器で、主に食物の消化を助ける膵液を分泌する外分泌機能と、血糖値を調節するインスリンなどのホルモンを分泌する内分泌機能を持ちます。膵臓がんの多くは、膵管に発生する腺がんというタイプです。膵臓がんは、がんが小さいうちは症状が現れにくく、発見が遅れがちです。

膵臓がんの特徴や症状について詳しく見ていきましょう。

膵臓がんの特徴

膵臓がんの特徴は、早期発見が非常に難しいという点です。膵臓は体の深部に位置しており、がんがある程度進行するまで症状がほとんど現れないため、発見時にはすでにステージ4になっているケースが多く見られます。また、膵臓がんは周囲の臓器やリンパ節に早く転移する傾向があり、手術で完全にがんを取り除くことが困難になることも特徴です。

・甲斐沼先生より

膵臓という臓器は腹部の背中側に位置しており、万が一膵臓がんを発症しても初期段階では自覚症状が乏しく発見されにくい疾患と言われています。

膵臓がんは早期から周囲の組織を破壊しながら進行していくため、腹部や背部の疼痛症状、食欲不振などの症状が現れて検査を受けた段階ではすでにかなりステージが進んだ状態である場合も決して少なくなく、発見された時点で手術切除が可能なケースは稀です。

膵臓がんの症状

膵臓がんの症状は、初期段階ではほとんど現れないため、がんが進行するまで自覚することは難しいとされています。膵臓がんが進行すると、次のような症状が現れます。

腹痛や背中の痛み

膵臓が体の深部に位置しているため、腫瘍が大きくなるとお腹だけではなく背中にまで痛みが現れることがあります。特に、食後や横になったときに痛みが増すことが多く、長期間続く場合は注意が必要です。

黄疸(おうだん)

膵臓がんが胆管を圧迫することで、胆汁の流れが妨げられ、皮膚や白目が黄色くなります。また、尿が茶色くなることもあります。黄疸が見られた場合は、すぐに医療機関に相談することが重要です。

体重減少や食欲不振

腫瘍が膵臓の消化機能を妨げるため、消化不良や食欲の低下が起こり、結果として体重が急激に減少します。特に、短期間での体重減少は注意が必要です。

腹部膨満感(お腹が張る感じ)

腫瘍が膵臓や周囲の臓器に影響を与えることで、食後にお腹が張ったように感じたり、満腹感が続いたりすることがあります。

糖尿病の発症や悪化

膵臓はインスリンを分泌する臓器でもあるため、がんの影響でインスリンの分泌に異常が起こり、血糖値の調整がうまくいかなくなり、糖尿病の発症や悪化が見られることがあります。

膵臓がんの余命は?ステージ別の生存率

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膵臓がん全症例の10年生存率は5.8%です。純粋に「がんのみが死因となる状況」を仮定して計算した「ネット・サバイバル」における膵臓がんのステージ別の10年生存率を解説します。

出典:国立がん研究センター「院内がん登録2011年10年生存率集計 公表 小児がん、AYA世代のがんの10年生存率をがん種別に初集計」

膵臓がんステージ0(0期)

ステージ0の膵臓がんは、がんが膵管の内側の粘膜層に留まっている初期段階を指します。がんはまだ膵臓の外に広がっておらず、転移のリスクも非常に低いです。この段階で膵臓がんを発見できることはまれですが、検診や偶然の発見によって診断されることがあります。

膵臓がんステージ1(I期)

ステージ1の膵臓がんでは、がんが膵臓内に留まっており、腫瘍が多少大きくなった状態です。リンパ節や他の臓器への転移はまだ見られません。この段階で手術が行われた場合、がんを完全に切除することができる可能性が高く、術後の補助療法(化学療法)によって再発リスクを下げることも期待されます。ステージ1の膵臓がん患者の10年生存率は約31.4%です。

膵臓がんステージ2(II期)

ステージ2では、がんが膵臓の壁外へと進展しているものの、腹腔動脈や上腸間膜動脈といった太い主要動脈へは及んでいない状態です。周囲のリンパ節に転移が見られる場合もあります。しかしながら他の臓器には転移していないため、手術が可能なケースが多いでしょう。ステージ2の膵臓がんの10年生存率は約10.3%です。

膵臓がんステージ3(Ⅲ期)

ステージ3の膵臓がんは、がんが膵臓の壁外に広がり、腹腔動脈や上腸間膜動脈へ浸潤している状態です。リンパ節へ転移しており、いつ他の臓器に転移するかわかりません。手術が困難なケースも多々あります。10年生存率は3.2%です。

膵臓がんステージ4(Ⅳ期)

ステージ4は、膵臓がんが他の臓器(肝臓、肺など)に転移した状態です。手術による治療はほとんど行われず、主に化学療法や放射線療法、免疫療法を行います。10年生存率は0.6%です。

膵臓がんの治療方法

膵臓がんの治療法は、がんのステージに応じて異なります。ステージが進んでいるほど手術が難しくなり、薬物療法や放射線療法が主な治療法となることが多いです。治療法の選択は、がんの進行具合だけでなく、患者の体調や生活環境にも影響されます。膵臓がんの治療法について詳しく見ていきましょう。

手術

がんが膵臓内に限局している場合に限り、手術を行います。膵臓がんの手術には、膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術、膵全摘術などがあり、がんの部位や進行度に応じて手術の種類を選択します。

膵頭十二指腸切除術は、膵頭部にがんがある場合に行う手術で、膵頭部に加えて十二指腸や胆管、胆のうを一緒に切除します。がんが胃や血管に近い場合は、それらの一部も切除されることがあります。近年では、胃を完全に残す「幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)」や大部分を残す「亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)」が行われることが増えてきています。

術後は、膵臓を小腸に再びバイパスして膵液が流れるように再建手術を行いますが、手術後は膵液や胆汁が漏れるリスクがあり、感染症や腹膜炎が起こる可能性があるため、注意が必要です。

膵体尾部切除術は、膵臓の体部や尾部のがんを切除する手術です。通常、脾臓も一緒に摘出しますが、消化管自体は切除しないため、再建手術は不要です。しかし、手術後には膵液漏れや出血などのリスクがあり、術後の回復期間には適切なケアが求められます。

がんが膵臓全体に広がっている場合には、膵臓全体を摘出する「膵全摘術」を行います。インスリンを分泌する膵臓が完全に除去されるため、術後に糖尿病を発症することがあります。また、消化酵素が分泌されなくなるため、消化吸収に障害が出ることもあり、インスリン療法や消化酵素剤の使用が必要となります。

放射線治療

膵臓がんの放射線治療には、「化学放射線療法」と「症状緩和を目的とした放射線治療」があります。

化学放射線療法は化学療法と放射線治療を併用する治療法で、手術が難しい局所進行切除不能膵臓がんの場合に行われます。化学療法を組み合わせることで放射線治療の効果を高め、がんの進行を抑えることが期待されます。また、粒子線治療(重粒子線治療や陽子線治療)などの高度な放射線治療も行われることがありますが、実施できる施設は限られているため、治療を希望する場合は担当医に相談することが必要です。

症状緩和を目的とした放射線治療は、手術ができない膵臓がんや、遠隔転移がある場合に、痛みを和らげるために行います。

放射線治療では、副作用として皮膚の色素沈着や吐き気、食欲不振、白血球の減少などが見られることがあります。まれに胃や腸の粘膜が傷ついて出血し、黒色便が出ることもあるため、治療中や治療後は体調の変化に注意することが大切です。

薬物治療

膵臓がんの薬物治療(化学療法)では、主に細胞障害性抗がん薬を使用し、がん細胞の増殖を抑制します。治療の状況によっては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が併用されることもあります。

分子標的薬は、がん細胞が増殖するのに必要な特定のタンパク質や分子を標的にして攻撃します。がん細胞をピンポイントで狙うため、正常な細胞への影響を最小限に抑えられるのが特徴です。

免疫チェックポイント阻害薬は、患者の免疫システムががん細胞を認識し、攻撃できるようにする薬です。膵臓がんにおいては、MSI-High(マイクロサテライト不安定性が高い)やTMB-High(腫瘍遺伝子変異量が多い)など特定の遺伝子変異がある場合に、適用します。

薬物療法は、がんの進行度や体調に応じて、さまざまな薬を組み合わせて行われます。術前補助化学療法や術後補助化学療法など、手術前後に薬物療法を行うことで再発リスクを低減させることが期待できます。また、手術が難しい場合や再発した際には、一次化学療法や二次化学療法として使われ、症状の緩和や延命を目指します。

薬物療法の副作用としては、吐き気、脱毛、しびれ、口内炎、下痢などが一般的に見られますが、これらの副作用を軽減するための薬も開発されています。担当医と十分に相談し、個々の状況に応じた最適な治療法を選択することが重要です。

免疫療法

免疫療法は、免疫システムを活性化させることで、がん細胞を攻撃して小さくする治療法です。膵臓がんにおいて、2023年3月時点で、科学的に効果が証明されている免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療法のみです。免疫チェックポイント阻害薬は、薬物療法の1つに位置づけられています。

膵臓がん患者と家族が知っておくべきこと

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膵臓がんと診断された場合、患者とその家族にとって多くの不安や疑問が生まれることでしょう。以下では、膵臓がんに関する重要な情報や、知っておくべき公的サポートについて解説します。

膵臓がんに関する情報

膵臓がんの治療や予後について、信頼できる情報源から正確な情報を集めることが大切です。インターネット上にはさまざまな情報があふれかえっていますが、誤った情報や信頼性の低い内容も含まれています。

こうした情報に惑わされることなく、国立がん研究センターやがん専門の医療機関が提供する信頼性の高いデータに基づいて判断することが大切です。

また、膵臓がんには手術、放射線治療、薬物治療、免疫療法などさまざまな治療法がありますが、患者ごとに最適な治療法は異なります。したがって、担当医との十分な話し合いが重要です。

患者のケアと家族のサポート

膵臓がんは進行が早く、治療や体調の変化が急激に起こることが多いです。そのため、患者だけでなく、家族も大きなストレスを感じます。たとえば、突然の体調悪化や予期せぬ症状の出現は、患者と家族に強い不安をもたらします。精神的な負担を軽減するために、心のケアが欠かせません。必要であれば、精神科や心療内科の専門家に相談し、適切な治療を受けることも大切です。

家族としては、無理に患者を元気づけるよりも、寄り添い、気持ちを共有する姿勢が求められます。
公的サポート

膵臓がんの治療には高額な医療費がかかることが多いものの、公的サポート制度を利用することで経済的な負担を軽減できます。まず、高額療養費制度を活用すれば、1か月の医療費が一定額を超えた場合、その超過分が後から返還されます。たとえば、治療費が40万円かかった場合でも、制度を適用すると自己負担額が10万円程度に抑えられることがあります。

また、医療費控除を利用すれば、年間の医療費が一定額を超えた場合、確定申告を通じて税金の一部が還付される可能性があります。

さらに、加入している医療保険やがん保険の内容を確認することも重要です。治療費や入院費がどの程度カバーされるのかを把握し、必要に応じて保険金を請求しましょう。

がんに罹患してどうしても高額な治療費が必要になった時などお金の不安がある場合は、生命保険の買取サービスの利用も選択肢の1つです。生命保険の買取金額は解約返戻金よりも高い可能性があり、まとまった現金を得ることができます。生命保険の売却方法の詳細は、「生命保険は売却できる?売る方法を解説」をご覧ください。

進行が早い膵臓がんにどう対処するか

膵臓がんは早期発見が難しく、進行が早いがんです。本記事では、膵臓がんの各ステージ別の生存率や治療法、知っておきたいことについて解説しました。

がん治療は長期に及ぶこともあるため、経済的負担を軽減するために公的制度を利用したり、保険に加入しておいたりといった対策が必要です。膵臓がんと診断された際は、今回解説した内容を参考に、適切な対応を心がけましょう。

・甲斐沼先生より

腹痛、背部痛、食思不振、嘔気、嘔吐、下痢、体重減少、黄疸など膵臓に関連する症状に該当している際には、膵臓がんなどを早期発見して速やかに治療開始することで、症状進行の抑制や合併症予防が期待できます。

腹部症状を中心として心配な症状が続いている方は、消化器内科など早急に専門医療機関を受診して相談するように心がけましょう。

▼この記事の監修者

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甲斐沼孟(かいぬま まさや)
甲聖会紀念病院理事長
  • 2007年 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科 卒業
  • 2009年 大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医
  • 2010年 大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医
  • 2012年 国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員
  • 2013年 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師
  • 2014年 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員
  • 2021年 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長
  • 2023年 TOTO関西支社健康管理室産業医